ある男の死
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03/6/25
ある男が死んだと携帯で聞かされた。
死んだ。
こんな単純な事なのに、聞き逃したわけでもないのに、頭が働かない。
信じられない、ではない。驚いた、でもない。
的確に言うなら、意味がわからない、だった。
死んだってなに?
この男ほど、憎い人間はいなかった。
この男ほど、恐い人間はいなかった。
この男は「お前を殺す。実家に行って、お前の家族をボコボコにしてやる」と電話で脅迫してきた。
それ以来、電話に出れなくなった。携帯で番号が見たことないのも出れない。
いつ僕が住んでるところへ襲撃に来るか、いつも恐かった。
犬の散歩してて、待ち伏せしてたら。外出先にいたら。
その男が住む家の近くを通るとき、家がある方向を見ることすら出来なかった。
もし立ってたら。もし目があったら。恐怖で震える。
電話があった日、そしてこの日以来、ちょっとの緊張で胃が締め付けられるように痛くなるようになった。
酷いのになると、知らない人に会うだけで痛い。
そんな男の死。
少し経って落ち着いてきて、残念という感情がわいた。
さすがに死んで欲しいと思ったことはなかった。
土下座すれば許した。
謝らないなら、色んな根暗な方法で精神的に嫌な思いをさせるつもりだった。
それも叶わず、相手はもう死んでしまった。残念だ。
あるドラマで神父さんの
「どんな人間も死ぬときは安らかに、そして罪は許される」というセリフを思い出した。
人間として許すべきなんだろうか。
特に日本人は判官びいきなど、同情的要素に弱く、死者をなお恨み続けることに賛成者は少なそうだ。
死はずるい。ゲレンデの恋愛のごとく美化される。
僕は許せそうにない。余りにも僕にマイナスの影響を与えすぎた。
とりあえず今のところは。
ここまで書いて、いつ明かそうか迷っていた事を書く。
この男は*くの*の父親だ。
これが僕を狂わせる。
愛する人の父親でなければ、死んで欲しいと願ったろうし
死を聞いて心置きなく踊ったろう。ざまあみろと笑ったろう。
それ以前に警察へ行ったか。
もう、この仮定の中での感情、行動すら最低なのに
残念と思ったあとに僕の心に浮かんだ感情は、紛れもなく開放感だった。
この感情は理性的に考えても最低であり、公序良俗に明らかに反する。
だが、現実として、僕の心に重くのしかかっていたストレスが1つ消えた。
そして新たなストレスが生まれた。
愛する父親の死で開放感を覚えたことによる*くの*に対する罪悪感。
*くの*の愛する人を憎むという対立、矛盾する立場と思考。
*くの*は父親と喧嘩し・・・いや、僕が喧嘩させて*くの*を家から出させたようなもの。
何度も家に帰ったりもしており仲直りしたものの、しこりが残ったままの死。
*くの*の悲しみは僕の予想を越える凄まじいものだった。
そして*くの*が悲しめば悲しむほど、僕が*くの*を好きでいてはいけなくなるような気がする。
「君の父親が死んで気が楽になったよ」
最低だ。自己嫌悪で死にたくなる。
昔、母親に好きになった人の両親と合わないなら付き合うのは無理だといわれた。
僕はそんなことはないと思ってた。
親が反対しようが、縁切ろうが、好きならそれだけでいいと思ってた。
あの男が生きてるなら、どんな悪口いっても*くの*は許したろう。
どれだけ憎んでも、許したろう。
なぜなら、仲直りする可能性という希望が心のかたすみにあるから。
もう永久にその機会は失われた。
たぶん、死者という特別の場所にいる父親に対する僕の感情を許してくれないだろう。
ここまで書いて、手が止まった。
だいぶ気が楽になった。考えを文章化してまとめて、それだけで良いのかもしれない。
このまま黙って、このファイル消せばいいのかもしれない。
HPにアップすれば、いつか*くの*の目にとまり、知らなくても良い、僕の心の闇を知って
とんでもないことになるのかもしれない。
*くの*の親族に見られ、とんでもないことになるかもしれない。
でも、誰かに知って欲しいと思ってるから、HPにアップしようとしているのかもしれない。
心のどこかで*くの*に読まれるのを望んでいるのかもしれない。
この罪悪感の苦しさは*くの*に理解してもらって初めて消えるのかもしれない。
黙っていたら一生僕の心を蝕むだろう。
でも「これ見てくれ」と言う勇気はない。
こっそりアップして運命に任せることにする。
死は重い。
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